「特別な日」だけの着物じゃない。キモノキルブが語る“頑張らない”着物の楽しみ方

これまで、着物を着たのはどんな場面でしたか? 振袖を着た成人式や、袴を着た大学の卒業式、浴衣を着て出かけた花火大会……。思い返してみると、着物を着るのはいつだって特別な日。着物を着ること自体が、非日常のイベントになっている気がします。
そんななか、「日常生活」で着物を着ることを楽しんでいる若者たちがいます。それが、『キモノキルブ』。彼女・彼らは着物を着て、花火大会や歌舞伎、寄席に行くわけではありません。買い物や飲み会など普段の日常生活の場面で、あえて着物を着ているのです。
彼女・彼らが、あえて日常生活の場面を選ぶのには、どんな理由があるのでしょうか。
キモノキルブの長島さん、内藤さん、カズキタさんの3人に、着物の魅力や初心者が着物を楽しむコツについて聞きました。

「気合い入ってるね」と言われて感じた違和感。キモノキルブが日常生活で着物を着る理由
写真左から内藤さん、カズキタさん、長島さん

──着物といえばハレの日に着るイメージが強いので、「日常生活で着物を楽しむ」というスタンスで活動されている若者世代は珍しい気がします。そのモチベーションはどこからきているんでしょうか?

長島さん:多くの人にとって、着物は特別な日じゃないと着られないものになっていると思うんです。でも私たちは、お気に入りの洋服を着たときや、好きなマニキュアを塗ったときに気分が上がるみたいに、日常的な場面で着物を着たいと思ったんです。

内藤さん:「特別な日に着よう」と思っていたら、着物を着るタイミングって全然ないんですよね。だからこそ、歌舞伎や寄席を見に行こうと特別な予定をつくるのではなく、買い物したり飲みに行ったりと、日常生活のなかで楽しんでいるような感じです。

──たしかに。花火大会など特別なイベントがなければ、着物を着る機会はなかなかないですもんね。

長島さん:「着物は気負わないと着られないもの」というイメージですよね。だから着物を着て違和感がない場所は限られているし、昔は友達と出かけるときに着ていくと「気合い入ってるね」と言われることもあって。「私はファッションのような感覚で好きな着物を着たいだけで、そんなつもりじゃないのに!」という思いから、キモノキルブがスタートしたんです(笑)。

──なるほど、洋服を着るのと同じような感覚で、ファッションとして着物を楽しんでいるんですね。でも、日常生活で着物を着ていて不便はないのでしょうか?

内藤さん:不便ですか? うーん……。不便は、そんなにないように思いますね。よく大変そうと言われるトイレも、着物の裾を持ち上げるだけなので、そんなに難しく感じたことはないです。

カズキタさん:強いていえば、階段ですかね? 歩幅が狭くなるので、階段を登るのはちょっと大変かもしれません。

長島さん:あぁ、たしかに。普段が大股歩きの人は、もしかしたら違和感があるかもしれません。でも実は、自転車にも乗れます。

──え、自転車ですか?

内藤さん:女性は、ちょっと長めのタイトスカートを履いている感覚に近いです。動きがとりにくい感覚はありますが、着物でも問題なく自転車に乗れますね。

──タイトスカート感覚だと考えると、女性はそこまで慣れない感じはしないかもしれませんね。

カズキタさん:むしろ、着物って機能面で優れてるんですよ。例えば、着物の袂(たもと)、つまり袖の部分にコインケースやスマホを入れておけるんですけど、これは結構便利です。

内藤さん:そうそう。スマホをなくしやすい人にはおすすめですね(笑)。

長島さん:あとは、私はよく腰が痛くなるんですけど、着物だと帯のホールド感があってなんだか安心します。自然と姿勢がよくなる気がしますね。「着物は大変そう」というイメージが強いかもしれませんが、意外とメリットもあるんです。

──温度調整についてはどうでしょうか。夏や冬に苦労しませんか?

長島さん:寒い分には大丈夫です。着物って3枚くらい重ねて着るうえ、なかにヒートテックを着ることもできるので。

内藤さん:夏は暑いですね。でも、今はメッシュ生地の小道具があって、工夫次第でだいぶ涼しくなります。私は夏着物と合わせるときに、メッシュの帯板(おびいた)やメッシュの衿芯(えりしん)を使っています。

長島さん:現代の着物には便利な小道具がたくさん出て着ているので、それを活用するといいですよね。最近は、衿つきの肌襦袢も発売されているんです。着物の下に着るだけで、衿が完成するという優れものです。こういった小道具を活用すれば、初心者でも着やすいと思います。

内藤さん:それでいうと、私はストレッチ素材の靴下足袋を買いました。通常の足袋は、かかと側のホックで留める仕様になっていて、それがよく外れたりするんですよ。靴下足袋は着脱しやすいし、脱げないし便利です。

省けるところは省いて、ラフに楽しむ。キモノキルブ流の「着付け方」

──着付けについてはいかがですか? 着物の着付けって、初心者からすると漠然とハードルが高いイメージがあります……。

内藤さん:私はもともと浴衣に慣れ親しんでいたこともあってか、はじめての着付けもそこまで大変ではなかったです。最初はわからないこともありましたが、着物の着付けに必要な最低限の小物と、省ける工程を教えてもらったら、自分でも着られるようになりました。

──着物の着付けの工程って、省略できる部分もあるんですか?

長島さん:もちろん、冠婚葬祭など厳粛さが求められる場所や、歌舞伎や寄席といった伝統的な場所では、きちんと着付けした方がいいと思います。でも、ちょっとしたお出かけで着物を楽しむときには、必ずしも工程を重視しなくてもいいんじゃないかと考えています。というのも、着付けにおける決まりごとを全てを忠実に守ろうとすると、すごく時間がかかっちゃうんです。

──着物には決まりごとが多そうなイメージがあります。

内藤さん:キモノキルブでの着付け方は、あくまで「日常生活で着物を楽しむ」ためのもの。上手に正確に着ようとして挫折するよりも、「まずは着物を着てみる」「そこから継続して楽しむ」ということを優先しています。

──うまくいかなくてもいいから、まずは着てみることが大事だと。

長島さん:そうしないと、着物のハードルが上がって着られなくなっちゃうので。着崩れていないことや見栄えの綺麗さ、季節感といった基本事項さえおさえておけば、そんなに神経質にならなくてもいいんです。

内藤さん:ちょっとしたお出かけをする分には、楽に着物を着たいなと思っています。例えば、着物の着付けで苦労するのが、帯です。キモノキルブでは、たとえ帯が綺麗にできなかったときも、羽織りで隠れてしまうからいいよね、というスタンスでいます。

組み合わせの妙を楽しむ。ファッションとしての着物の魅力とは?

──着物って、意外にもラフに楽しめるものなんですね。

内藤さん:私は着物を着てみたいと思ったとき、それを「頑張る」というより「面白がりたい」と思いました。

──着物を着るのを面白がる。

内藤さん:着付けを習いに行って「その着方は違う」と指導してもらって学ぶよりも、ファッションを楽しむように着物を着ることができたらいいなと。

──その発想はなかったです。着物をファッションとして考えたときは、どんなところに魅力があるのでしょうか?

内藤さん:私は、着物を「ちょっとかわいいワンピース」くらいの感覚で着てますね。着物の色や柄で言うと比較的地味なんですけど、洋服として考えると、オフィスにも着ていけるような派手すぎないワンピースみたいな。

──その視点は新しいですね。

長島さん:女性の着物は、アイテムで遊べるなと思います。アイテムの自由度が高いので、「半衿(はんえり)」や「帯留め(おびどめ)」などを、アクセサリー感覚で付け替えてます。

──着物の小道具で、幅広いアレンジができるんですね! 男性の場合は着物で使う小道具は少ない印象ですが、どうなんでしょう?

カズキタさん:女性の場合、着物の小道具を使ったお洒落を楽しめますが、男性の場合は着物のアイテムが少ないんですよね。

内藤さん:男性の場合は、着物の下にシャツを合わせたりすると、文豪っぽくてかっこいいなと思います。

カズキタさん:確かに。シャツや帽子、革靴など着物以外のアイテムを組み合わせて楽しむ形になりますね。

──着物にシャツや帽子……。言われてみれば、着物と洋服って意外に合いそうですね!

汚れてもいい着物を含めて複数着買うのが◎。初心者が着物を楽しむコツ

──初心者が着物を楽しむには、まずどういったところから入るのがいいのでしょうか?

内藤さん:一番最初は、自分で購入せずにレンタルで着付けてもらってもいいと思います。

長島さん:お金の面で言うと、継続して着物を着たいなら、古着屋で買ったり、知り合いにもらったりするのがおすすめですよ。レンタルだと、1回8000円ほどで割高なので、思い切って自分の着物を持った方が続けやすい気がします。

──着物って高価なイメージがありますが、手頃に買えるものもあるんでしょうか?

内藤さん:私が最初に着物を買ったのは古着屋なんですけど、小物などを一式そろえて2万5000円くらい、他の着物を4〜5着買って、トータル5〜6万円ほどだったと思います。

──決して安いわけではないと思いますが、それだけの種類の着物をそろえて5~6万というのは、案外お手頃価格ですね…!

長島さん:新品でいい着物を買おうとすると、何十万とするものもあります。古着屋さんなら、安いものなら1000円代で買えることもありますよ!

──や、安い…。ただ、いくら安いからといって、初心者が古着屋で着物を選ぶのは難しそうです。

長島さん:最初はお店の人や着物に詳しい人に聞くのが安心ですね。お店の人もプロなので、丁寧に時間をかけて接客してくれます。それに、着物は最初に小道具などを一式そろえてしまえば、あとは着まわしがきくので大丈夫ですよ。

カズキタさん:女性の場合はいろいろと組み合わせて楽しめるから、思い切って4~5着買うのがいいと思いますね。あとは、汚してもいいと思える着物を持つこと。気負わず着られるので、継続的に着やすくなると思います。

──着物選びのポイントってありますか?

内藤さん:選び方はメイクやファッションと一緒で、自分の好きなもの、似合うものを選べばいいと思います。シンプルな着物が1着あると、帯や襟で遊べていいかもしれません。

長島さん:一度羽織ってみて、自分に似合うかどうかを見るのは大事だと思います。女性の場合、着丈はある程度調整できるので、袖の長さを注意して見るといいです。手首が少し見えるくらいがちょうどいいですね。

──具体的で的確なアドバイスでありがたいです。男性の場合は、別のポイントはありますか?

カズキタさん:男性の場合は、帯部分での調整ができないので、着丈の長さに気をつけるといいと思います。足首が思いっきり見えていると、ダサくなっちゃうんですよね。着丈はくるぶしくらいまでがベスト。着物に着られないように、自分の身長にあったものを見つけるのが大事かなと思います。

最後に

日常生活で着る洋服と同じく、お洒落を楽しんだり、好きなアイテムで気分を上げるような感覚で着物を楽しむ。そんな「頑張る」よりも「面白がる」な着物の楽しみ方に、はっとさせられました。

着物を正確に着ようとして挫折するよりも、まず着てみるというのがキモノキルブ流の楽しみ方。これからは気負わず、好きなファッションを楽しむような気持ちで着物を楽しみたいと思います。